参議院が強すぎる
議院内閣制をとっている他国と比べて、日本は、参議院が非常に強い。
以下に議院内閣制をとる諸外国の、法律制定における状況を記すと
イギリス:基本的に下院がすべて決める。上院は審議引き延ばしが出来るだけ。
フランス:二度(緊急時は一度)の議決で両院の意見が食い違うときは、政府は両院協議会開催を要求でき、それでも意見が一致しないならば、政府は下院に最終的な議決を要求できる。(フランス共和国憲法第45条)
ドイツ:一般の法案では、連邦参議院の同意は必要なく、連邦参議院は異議を提出できるが、連邦議会の過半数で異議を否決できる。(ドイツ連邦共和国基本法)
スウェーデン:一院制
ということで、参議院が否決すると、衆議院が三分の二以上で再可決する必要があるというのは、相当にハードルが高い。実質的には、参議院が拒否を行ったら国政は動かないと言っていいだろう。
政権選択の選挙は、現行憲法の規定により衆議院議員選挙であることは明らかであり、参議院選挙で勝ったからといって後出しジャンケンのように「参議院だって政権選択の選挙だと見ていい」などと言い立てるのは許されない。さてそうすると、
民主政の原理を積極的に認めるならば、政権の成立基盤を侵さないよう、参議院は自己抑制を心がけるしかない(飯尾潤『日本の統治構造』p185)
のである。
さらにまずいことに、国会同意人事は両院の同意が必要であり、法案や予算のような規定はない。
かりに野党がこれら(日本銀行総裁など)の官職の任命をとにもかくにも妨害するのだと決意した場合、それを打ち破る方法は法的にはないのである(大屋雄裕「憲法とは政治を忘れるためのルールである」(『RATIO4号』収録)p165)
想像したくない事態だが、仮に一方の当事者が他方の打倒のみを目指しており、利益提供によってそれを断念するつもりもなければ打倒後に生じるだろう事態について責任を負う気もない場合、交渉によって妥協に至ることは不可能だというべきではないか(同p166)
要するに、参議院はほとんど衆議院と対等に力を有しているのであり、したがって、参議院の第一党は国政の半分の義務と責任を持っているのである。
今日の国会の混乱は、国民が、民主党もまた国政の半分近い力を有していることを自覚しておらず、それにふさわしい義務と責任を求めていないことに起因すると思われる。民主党は、これまでのように採決したら必ず負ける党ではない。今までのような「抵抗するだけの野党」ではいけないのだ。民主党は国政を担っているという意識を持ち、きちんとした対案を示さなければならない。そして国民は、民主党がもはや今までの「抵抗するだけの野党」であってはならないこと、民主党が有している強大な力にふさわしい義務と責任を有していることを自覚し、その義務と責任を求めていかなければならない。そうでなければ日本の国政は本当に死んでしまう。
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