アカロフ「レモン市場」(『ある理論経済学者のお話の本』収録)と数理モデル
情報の経済学を開いたともいえるアカロフの記念碑的論文が「レモン市場」だが、普通に読む限り常識的なことしか言っていない。
いやもちろん常識的なことを明確化し再認識しておくことは重要なのだが、だとしたら思うのが、彼の行った数理モデル化はほとんど無意味ではなかろうかという点である。
私自身が最初に(経済学慣れしていないときに)読んだときは、その数式とグラフに怖気づいてしまったのだが、落ち着いて読んでみるとグラフや数式自体にはほとんど意味はない。
この数理モデルで言っていることは単純で、「品質が連続均分布しているならば、中古市場には、平均して価格の半分の価値の商品が出される」というだけだ。だから「買い手が売り手の2倍以上の価値を平均してその商品から見出すのでない限り売買は成立しない」。
とただこれだけ言えばいいものが、需要供給のグラフを持ち出したり、価格について変に数式化してみたりと、やたら難解に見せかけるようになっている。一言でいえば無駄な装飾だ。
ただこれは、当時の経済学界の問題であって、アカロフに対して言うのは酷かもしれない。当時の「異端を排除する」趣においては、数理モデル化がなされていなければそもそも論文として認めてもらえなかったという状況背景があるのかもしれない(実際のところ、アカロフの論文は掲載されるまでに数年かかっている)。
数理モデルを用いて、最初から我々がわかっている結論が出てきて安心しているのでは、何のための数理モデル化かわからない。数理モデルが有用なのは、それを用いることで、我々の直観と反する結論を導く点にあるだろう。
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