「真の構造」論の罠
ちまたでしばしば聞くタイプの論に「世界は実は~の陰謀によって、そいつらに都合のいいように陰で動かされている」や「人々の~という行動は実は~という潜在心理が原因なのだ」のような論がある。これらの論をまとめて「真の構造」論と呼ぼう。というのも、両者とも「世界の隠された真の構造」を暴きたてるタイプの論だからである。
この手の論は、複雑な世界のさまざまな問題を「かんたんに」してしまい、単純な悪に原因を帰してしまうので、世間での受けはいいだろう。複雑な思考をせずとも「あれが諸悪の根源なんだ」と頭を使わずに非難の声を上げてればすむからである。
だが、こうした論は反証可能性を有していないという致命的欠陥を抱えている。前者の陰謀論のタイプでいけば、都合の悪いデータが上がっても「これは懐柔だ」とか「強大な力でデータ改ざんをしたんだ」などといくらでも説明がついてしまう。後者の潜在心理のタイプも同様だ。
ところが、そういう反証可能性の点にまで頭を回さなかったら、こうした「真の構造」論は非常に素晴らしい論に見えてしまう。なんといっても、どんなことでも説明がついてしまうのだから。なんでも説明がつくという最大の弱点を最大の長所と錯覚している限り、信じ切った人にその論が誤っていることを示すのは難しい。こうした「真の構造」論はもはや宗教なのだ。
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