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オバマのノーベル平和賞と核廃絶について

オバマがノーベル平和賞を受賞した。CNNではいろいろな受賞理由が書かれているが、日本では核廃絶の話がやたら取り上げられている。

さて、核廃絶の話といえばプラハでの演説なんだけど、演説全文(日本語訳)見てみてもオバマはそういう平和主義者なのか怪しく思える。

まず、核不拡散は、すでに核保有している国にとって圧倒的に有利な枠組みであり、ゆえに核保有国たるアメリカはそれを推進することが(平和の理想云々ではなく)軍事的戦略にかなうということは確認しておこう。そのうえで、オバマが提示するプランというのは、

では、私たちが取らなければならない道筋を説明しましょう。まず、米国は、核兵器のない世界に向けて、具体的な措置を取ります。冷戦時代の考え方に終止 符を打つために、米国は国家安全保障戦略における核兵器の役割を縮小し、他国にも同様の措置を取ることを求めます。もちろん、核兵器が存在する限り、わが 国は、いかなる敵であろうとこれを抑止し、チェコ共和国を含む同盟諸国に対する防衛を保証するために、安全かつ効果的な兵器を維持します。しかし、私たち は、兵器の保有量を削減する努力を始めます。

核兵器の役割はあくまでも「縮小」であり、「廃絶」ではない点に注意しておこう。現状において核兵器は、大国としては「使えない兵器」であり、脅しとして しか機能していないし、むしろ他国の核保有の口実を与える以上、実際の防衛の戦略を立てる際には、使えない核に頼るのではなく、実行力のある兵器にシフト させた方がいい。
そしてオバマが持ち出してくるのは、核の代替手段としての「安全かつ効果的な兵器」である。核ではない効果的な防衛システム。ミサイル防衛だか何だかはわ からないが、そういう新たな軍事戦略へのシフトを言っているのであって、能天気に軍備を捨てようとしているわけではないだろう。

というか、プラハでの演説の本旨は

私たちは、共通の安全保障を提供するために、同盟を強化しなければなりません。

という一文に尽きている気がするのだが。そうでなきゃプラハで演説した意味もないし、事あるごとにプラハの春に言及するのも、アメリカーチェコの歴史的経緯と今後の関係への展望へと結びつけるためであろう。
そしてその文脈において

いかなる同盟も、手をこまねいている場合ではありません。私たちは、新しい脅威がどこで発生しようとも、それに対処するための危機管理計画を備えて おくために、NATO加盟国として協力しなければなりません。国境を越えた危険に対処するために、相互の協力関係を強化し、世界各地の国家や機関との関係 を強化しなければなりません。そして、共通の懸念事項に関して、ロシアと建設的な関係を構築すべく努力しなければなりません。

今日私が重点を置いてお話しする課題のひとつは、この両国の安全保障にとって、また世界の平和にとって根本的な課題、すなわち21世紀における核兵器の未来、という問題です。

という発言が出てくるのである。このコンテクストでは「世界の平和」はすなわちアメリカーチェコの安全保障・軍事戦略の帰結として発生してくるものであっ て、そんな崇高なものでもない。そして現状の核拡散は問題で、冷戦構造の方法での解決はできない。で、どうするかということで出てきたのが、先述の「新し い効果的兵器」なのであった。
これは(もちろんオバマは見せ方は上手いけど)あくまでも軍事戦略のシフトであって、平和団体が望むようなすばらしいものだとは思えない。核が減って代わ りにミサイル防衛が完備された世界が素晴らしい世界なのならそれでもいいけど、なんか核の自動報復システムの時代とやってるこてゃ変わらない気もするし。

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