天皇会見1か月前ルールと「法」の崩壊
時事通信より
「二度とあってほしくない」=陛下と中国副主席の会見設定で宮内庁長官
天皇陛下と中国の習近平国家副主席との会見が通常の手続きを踏まずに決まったことについて、宮内庁の羽毛田信吾長官は11日、記者団に急きょ経緯を説明 し「誠に心苦しい思いで陛下に(会見を)お願いした。こういったことは二度とあってほしくないというのが、私の切なる願いだった」と述べ、強い不快感を示 した。
羽毛田長官は「陛下の政治的利用につながるのではないかという懸念を持っているか」との質問に「大きく言えばそういうこと」と述べた。
同長官によると、会見要請の打診が宮内庁にあったのは先月26日。陛下と外国要人との会見は1カ月前までに申請する慣行に反していたため、同庁は翌日、外務省に断る意向を伝えた。
しかし、平野博文官房長官から今月7日、羽毛田長官に「ルールは理解するが、日中関係の重要性にかんがみてぜひお願いする」と電話があった。
羽毛田長官は「陛下をお守りするためにつくられ、政府内で順守されてきたルール。国の大小とか政治的に重要な国かといったことにかかわらず、尊重して やってきた」と慣行を守るよう求めたが、10日夕にも「総理の指示を受けての要請」と電話があり、了承したという。(2009/12/12-01:06)
天皇の政治利用はもちろん大問題なんだけど、それ以外に、今の内閣は法治国家であるにもかかわらず「法=規則を守るという考えが希薄」という大問題があると思う。
1か月前ルールは、宮内庁長官によると
―1カ月前までに申請するルールの意味は。
日にちが迫って新たに日程を入れれば調整に支障 が出る。宮内庁が勝手に決めたのではなく外務省と相談して決め、1995年に文書化した。1カ月という期間の是非を議論しても意味がない。大事なのは政府 でこのルールを守ってきたこと。それなのに「中国は大事だから、政治的に重要だから会見を」という論理はつらいところだ。(さきがけon the web)
というわけで文書化されたルールが存在しているのだから、法治国家のトップである以上規則はちゃんと守ってもらいたい。というかそれが出来ない人が内閣にいるとかはっきりいって不安極まりない話。
ところが鳩山首相によると
首相は「1カ月を数日間切れば、しゃくし定規に『駄目だ』ということで、国際親善の意味で正しいのかどうか」と述べ、特例として会見の実現を求めたことを 認めた。(時事通信)
「国際親善の意味」って普通に政治的意味なんだから、これは政治の理由で天皇を利用したということを認めてるじゃん、というあたりですでに破綻してるのだ
が、そもそも1か月前ルールは国際親善云々の状況はすべて前提にして作られているわけで、結局ルールの意味を何も分かっていないのですか、と言いたくな
る。「しゃくし定規」って、ルールとはそのようなものなんだし。
ってか故人献金問題でもずっと思っていたのだが、故人献金そのものももちろん問題だけど、この人「法律を守らなきゃいけないと思ってなかったでしょ」という対応にしか見えなくて、「法律を知った上で抜け穴を探す」普通の政治家より「法を守る」という意識の点で見たらはるかに大問題だと思うわけで。
で、もっとひどいのが平野官房長官で
この中で平野官房長官は、習副主席の来日に関連して中国側から習副主席と天皇陛下との面会の要請があったことを明らかにしたうえで、「鳩山総理大臣から日 中関係は重要であり、検討するように指示があった。最終結果は承知していないが、担当部局で調整している」と述べ、面会を調整していることを明らかにしま した。外国の首脳クラスの要人が天皇陛下と面会する際は、慣例上1か月前に日本政府に申し入れることになっていますが、今回の面会要請は、その期限よりあ とだったということで、例外的な対応をすべきではないという指摘も政府内には出ています。これについて、平野官房長官は「1か月ルールといわれるものは詳 しく承知していないが、政治的に日中関係は非常に重要であり、ぜひお願いできないかと申し上げたということだ」と述べました。(NHKニュー ス)
「日中関係は重要であり」ってやっぱり政治の理由じゃないですか、というのはもうわかっているからいいとして、「1か月ルールといわれるものは詳しく承知 していないが」って何なんだ一体!ルールはあるんだから知らないなら調べろよ。ルールは知らない、でもそれでいい、って思ってるあたり内閣として致命傷。
まあしかもひどいことにこんなのは他にもいるからね。だいぶ前の話だけど菅直人がブログで
日本の国家公務員法にもその102条に公務員の「政治行為の制限」が規定されている。イギリスの上級公務員は「国政レベルで議論になっている問題について 公の場で発言したりマスコミに意見を発表すること」が規則で禁止されている。しかし日本では禁止されているかどうか必ずしもはっきりしない。ここに問題が ある。(菅直人公式サイト)
国家公務員法102条には
職員は、政党又は政治的目的のために、寄附金その他の利益を求め、若しくは受領し、又は何らの方法を以てするを問わず、これらの行為に関与し、あるいは選挙権の行使を除く外、人事院規則で定める政治的行為をしてはならない。
ってあるんだから人事院規則を読めばいいだけの話でしょ。実際人事院規則6条11項「集会その他多数の人に接し得る場所で又は拡声器、ラジオその他の手段 を利用して、公に政治的目的を有する意見を述べること。」とか規定はあるんだし。その手間を惜しんで「はっきりしない」って、はっきりしないのは調べない からでしょうが。
もう一つ、これは孫引きになってしまう(http://www.wafu.ne.jp/~gori/diary3/200406091408.html)が
岡田氏は「(就任時に)国家公務員法の規定を知らなかった」と述べ、陳謝したが、自民党などから批判が出ている。 (朝日新聞06/08 21:25)
なんでこういうのばっかり今の内閣にはいるんだろうか。
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コメント
憲法3条「天皇の国事行為は『すべて』内閣の助言と承認が必要」。天皇の勝手な行動を制限するため国民が選んだ代表たる政治家が『すべて』政治的判断で行為を決めていく。これが戦後民主主義の理念。試験に勝手に合格して勝手になった役人たちが作ったルールは、尊重してしかるべきだが、金科玉条のごとく絶対守るべしというのは馬鹿げている。憲法を読みなさい。(14日小沢幹事長記者会見より)
投稿: なつ | 2009年12月15日 (火) 02時20分