小沢幹事長起訴相当と共同謀議
小沢幹事長が起訴相当になったことがいろいろと論議を呼んでいる。
この「起訴相当」の決定を批判するものとしては、例えば以下のようなものがある。
本件の核心は、水谷建設より1億円(5000万2回)が小澤氏側に裏献金されたという構図にあり、当然のことながら、裏献金の受領があれば、政治資金収支 報告書には不記載となるから、その報告書は虚偽記載となる。
しかし、この水谷建設からの1 億円裏献金話は、今般の検察審査会の議決内容には無く、前述のように4億円不記載容疑も無い。
したがって、記載されている容疑は、取得した不動産 の支出と伴い取得された不動産を04年度収支報告書に記載せず、05年度に記載した期ずれだけということになる。
また議決にある意図的に 小澤氏の資金を隠そうとしたという内容は失当であり、陸山会平成16年度政治資金収支報告書には「小澤一郎借入金4億円」と明記されている。
そして土地資産は翌年の06年度(平成17年度)に同会政治資金収支報告書に明記されている。
因って、意図的に隠すなら、平成16年度政治資金収支報 告書に小澤氏個人からの借入金を書いたりはしない。
したがって本件は、借入金と伴う不動産取得と登記の関係で、単に石川議員が登記時点に て不動産取得、つまり06年度に登記をもって資産計上するものと判断したとするのが自然である。
小澤氏個人からの借入金4億円は、平成16年度報 告書に明記されており、且つ、取得された不動産は平成17年度に明記され、今日も総務省HPにて確認出来る。
即ち、共謀共同正犯以前に、 陸山会自身が意図的に虚偽記入する利益が無い。
なぜなら、前述のとおり、小澤一郎個人から陸山会への借入金4億円は明記され総務省に提出公開さ れ、且つ、翌年には登記後に取得された土地資産が明記されこれも総務省に提出公開されているからである。
また更にその借入金は、2年後に小澤一郎 個人に利息付で返済されており、そこに意図的な資金隠しや不動産隠しがあるわけではない。(oliver! News)
しかしまた、「議決の理由」を読んで、また驚いた。
「情況証拠」しか挙げられていないのに小沢氏の「共謀共同正犯」を結論づけているからだ。
「直接的証拠」として会計責任者やその職務を補佐した者が「収支報告書を提出前に」小沢氏に「説明し」、小沢氏の「了承を得ている」ことが挙げられてい る。
だが、これは、「虚偽の報告」をすることを「説明し」「了承を得ている」、ということではないから、証拠としては十分であるとは言いがたい。(上脇博之 ある憲法研究者の情報発信の場「検察審査会の小沢一郎「起訴相当」議決には2度驚いた!」)
とりあえず、前半の「共同謀議以前に、そもそも共同謀議した等の犯罪がおかしい」というのは、じゃあなんで石川議員とか大久保秘書とかは起訴されたんだっけ、と考えてみればその反論は不自然であることがわかるだろう。もともと小沢幹事長が不起訴になったのは
小沢一郎・民主党幹事長(67)の資金管理団体「陸山会」の土地購入を巡る事件で、東京地検特捜部は4日、同会の事務担当者だった石川知裕衆院議員 (36)ら3人を、政治資金規正法違反(虚偽記入)で東京地裁に起訴した。
刑事告発されていた小沢氏については、石川容疑者らとの共謀が十分に立証できていないとして嫌疑不十分で不起訴とし た。小沢氏は同日夜、この結論を受けて幹事長続投を表明した。
立件された虚偽記入の総額は史上最高の約21億7000万円。昨年11月の石川容疑者らの告発から始まった捜査は事実上終結した。ほかに起訴され たのは、同会の元会計責任者で小沢氏の公設第1秘書・大久保隆規被告(48)と、石川容疑者の後任の事務担当者だった元私設秘書・池田光智容疑者 (32)。
特捜部は、同会が2004年10月に東京都世田谷区深沢の土地代に充てた4億円について、小沢氏からの「借入金」だと認定した。
石川容疑者はこの4億円について、同会の04年分の政治資金収支報告書に記載しない方針を小沢氏に報告し、了承を得たと供述していたが、佐久間達 哉特捜部長は記者会見で、小沢氏の起訴を見送った理由について「有罪を得るだけの証拠がなかった」と述べた。(YOMIURI ONLINE)
とあるように「共同謀議が立証できないため」であって、「共同謀議の対象とされている行為が犯罪ではないため」ではない。要するに小沢幹事長が悪意でもってその行為に関与していたか否かが起訴か不起訴かの分かれ目だったのであって、その行為が犯罪だったかどうかはそもそも争点になってない。だから、最初取り上げた記事の反論というのはそもそも的外れなのである。
「悪意の証明」というのは、本人が自白してくれない限りは相当難しいものである。今回のように自白がない場合には、起訴するならば状況証拠で固めるしかない。人間の内心に関する判断なので、物的な事象の判断とは違い、解釈者の主観が入らざるを得ない。そうした判断の差異によって、例えば
3 被疑者が否認していても、以下の状況証拠が認められる。
(1)被疑者からの4億円を原資として土地を購入した事実を隠蔽(いんぺい)するため、銀行への融資申込書や約束手形に被疑者自らが署名、押印を し、陸山会の定期預金を担保に金利(年額約450万円)を支払ってまで銀行融資を受けている等の執拗(しつよう)な偽装工作をしている。(YOMIURI ONLINE)
のような行為に対する内心の判断(悪意の有無)が分かれたのであろう。
そして自白抜きの悪意の立証には状況証拠しかあり得ないため、「状況証拠しかないのに」という反論はそもそもおかしい。むしろ状況証拠での起訴を認めないなら、昔みたいな「拷問で無理やり自白をとる」ような時代に逆戻りしてしまうだろう。
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