雑感
ブログ等と比較したとき、Twitterのよくない点は、誤った情報がながされているときにそれに対して訂正・反論の情報を確実に流す手段が存在しないこと。誤った情報を流した人をフォローしている人が、自分もまたフォローしている保証はどこにもないのだから、自分が反論をツイートしても見てもらえる保証はない。
というわけで、Twitterでやたら流れてきた科学系の話題2つ。
・一つ目。武田邦彦『偽善エコロジー』の内容らしくbotで流れてきた。同じ内容を別の人も書いていたのでそちらを引こう。
(1)「温暖化によって北極の氷が溶けて海面が上昇する」
温暖化で北極海 の氷が融解することは、まぎれもない事実である。そのため海面が上昇するといった主張が一部メディアにあったようだが、これが間違いであることは科学的な真実と言える。すなわち、温暖化で北極海の氷が溶けることは確実であるが、海に浮かんでいる氷が溶けたからといって海面が上昇することはない。そこで、この表現の評価は、「絶対的間違い」。いまさら、ウソだというまでもない単なる無知に過ぎない。(安井至「環境問題のウソと正解」)
・ええと、とりあえず、海に浮かんでいる氷が溶けたら海面は上がりますということだけ指摘。なぜかというと、海水は塩がとけているので比重が大きく、したがって押しのけた体積分の水を固めた氷よりもより多くの氷を浮かせることが出来る。それがとけたら当然海面は上がる。塩分が多いと重いものが浮くっていう話は、死海で人が簡単に浮くとかいう話をイメージしてもらえればわかるだろう。
・二つ目。これは科学というより考え方の問題だが、
「卵が先か、鶏が先か」――。英国の科学者チームがこのほど、人類古来の“大疑問”に結論を下した。たんぱく質を解析したところ「卵が先にあったと は考えられない。したがって、鶏が先」という。チャイナネットなどが報じた。
英国のシェフィールド大学とウォーリック大学の研究者チームが、Ovocledidin-17(OC-17)というたんぱく質を研究した結果、分かった。チームはスーパーコンピュータを駆使して、OC-17が鶏の体内で卵の殻の形成に決定的な役割を果たしていることを突き止めた。
鶏の卵の殻は方解石結晶となった炭酸カルシウムで構成されている。OC-17は方解石結晶の生成を促進するという。方解石結晶は多くの動物や鳥類の卵に含まれるが、成熟した鶏の雌は方解石結晶を作る能力が他の動物に比べて極めて早く、24時間内に6グラムを作りだす。
鶏の卵の殻は、ひな鳥が生まれるために必要不可欠なものだ。そして、OC-17は鶏の卵巣に特有のたんぱく質だ。科学者チームは「母鶏がいてこそ、きちんとした卵ができる。したがって、鶏が先。卵は後」との結論をくだした。(「人類古来の“大疑問”に英科学者が結論…「鶏が先、卵が後」」)
・まあ「鶏が先か、卵が先か」ってのは、結論だけ言ってしまえば単なる言葉遊びに過ぎない。
・つまらん話をすれば、答えは「卵が先」。なぜなら、鶏以外の生物の卵(魚の卵とか)が鶏が生まれる前に確実に存在するから。
・そんなくだらない答えを言うなと思うかもしれないが、だとすると答えを出すべき問いは何なのか。それは「鶏が先か、鶏の卵が先か」だというのが大方の答えだろうが、ならば、その「鶏の卵」をどう定義するのか、という問題が発生する。「鶏の卵」を「鶏が産んだ卵」と定義すれば鶏が先に決まっているし、「鶏が生まれてきた卵」と定義すれば卵が先に決まっている。だから要は定義の問題であって科学の問題ではない。
・ちなみに、朝日の記事だと、上のニュースは言い過ぎだということで
【ワシントン=勝田敏彦】人類が長年悩み続けた謎「鶏が先か、卵が先か」がついに解決?――英国の大学が最近発表した研究で、卵の殻ができるには雌 鶏が作るたんぱく質が不可欠であることがわかって「鶏が先」といったんは「決着」したかにみえた。だが、「まだ完全な回答ではない」として、本格的な「解 明」はまだ先の話になりそうだという。
この研究は、英シェフィールド大とウォリック大が9日に発表した。研究チームは、雌鶏が殻を一晩で作ってしまう秘密を探るため、雌鶏の卵巣にある OC―17と呼ばれるたんぱく質の働きをコンピューターで調べた。その結果、このたんぱく質に殻を硬くする炭酸カルシウムの結晶を急速に成長させる働きが あることを突きとめた。
研究チームのシェフィールド大の研究者が「鶏が先という科学的証拠が得られた」と勇み足気味のコメントを出すなどしたため、「難問がついに解決」と騒ぎ になった。同じチームのウォリック大の研究者は15日、「謎そのものが無意味。今回の成果は人工骨の開発などに役立つだろうが」とのコメントを追加で発 表、沈静化に走っている。
シェフィールド大の広報担当者は取材に「今回の研究の範囲では『鶏が先』だが、完全な回答にはならない。解明は哲学者や進化生物学者に任せたほうがい い」と答えた。(「ニワトリが先かタマゴか、やはり難問 英の研究で論争」)
って書いてるけど、なんかポイントを逸している気がするんだよね。
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コメント
知識を持たないのではっきりしませんが、一般的に純水に、純水でできた氷が浮かんでいる場合は溶けても水面は上がりません。
そして、塩水に純水でできた氷が浮かんでいる場合は溶けると水面は上昇します。
本件の場合、氷山は純水でできているのでしょうか?それとも海水が凍った物、つまり海水濃度と同等濃度の塩分を含んだ氷山なのでしょうか?あるいはどちらも存在すると言うことでしょうか?
もし氷山が海水と同等濃度の塩分を含んでいるのならば、溶けてもやはり水面は上昇しないので、重要なポイントは理論の誤認ではなく、氷山の成分にあると思います。
投稿: B-CHAN | 2010年8月14日 (土) 19時24分
塩水を凍らせていくと、純水がどんどんと氷になって液体の塩分濃度が高くなっていくので、多分北極は純水に近いのではないかと思います。
多分北極の氷の成分はボーリング調査等もされているので、そちらを調べた方が正確ですね。
個人的に気になるのは、
海水面の水かさの増加は色々な原因があると思うが、北極の氷が溶けることによる寄与率が本当に高いのかというところです。
海水温度が上昇して、海水が膨張する割合の方が直感的に大きそうです。
投稿: ちぇん | 2014年8月21日 (木) 15時55分