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3×5と5×3を小学校教育で分けることについて(追記)

先日の記事、「3×5と5×3を小学校教育で分けることついて」に@t_udaさんから鋭い指摘をいただいたのでそれに絡めて追記

結論に至る重要な部分の数学的記述が不正確なように思われるので突っ込ませて下さい。

> "一般に「pをq回足すこと」と「qをp回足すこと」が同一の結果となることは、積の可換性、p×q=q×pを用いなければ示すことはできない。"

これは嘘ですね。抽象的な代数として「pをq回足したもの」を p×q の定義とするならば、×の可換性は示せます。もっとも、帰納的な「証明」(と自然数の加法の定義)が必要なので、結局小学校レベルの算数を逸脱してしまいますが。

もともとの私の書き方自体が不正確であったのもあるが、このコメントは帰納的な方法による可換性を示す方法の可能性に言及したものと理解できる。実際こうした帰納的方法は先日の記事を書いた段階ではあまり考えていなかったので、この点について突っ込んで考えてみる。

まず帰納的方法による可換性の示し方と言うのは、「p×q=q×p、ならば(p+1)×q=q×(p+1)」という感じで数学的機能法を用いて、1×1から出発してすべての自然数の積の可換性を示そうという方法である。これは一見上手くいきそうにみえる。

だが、これが成り立つためにはそもそも帰納法の成立条件が満たされねばならない。つまり「5×3=3×5、ならば6×3=3×6」を示す必要がある。これは一見自明のようだが、自然数の積の体系が定義されていない状況では、これが成立するとは限らない。「5×3」は「5個の皿に3個のリンゴ、という状況におけるリンゴの総和」を示している。前の日記の記号を用いれば(5|3)という状況の総和を計算してf(5|3)である。

さて、状態(p|q)については一般に以下のことが定義としていえる。

(p|q)+(r|q)=(p+r|q)
f(X+Y)=fX+fY

上の式は、「p個の皿にq個のリンゴ」という状態と「r個の皿にq個のリンゴ」という状態とを足し合わせると、「p+r個の皿にq個のリンゴ」という状態になるということを示している。
下の式は、二つの状態の総和は、それぞれの状態の総和を足したものに等しいということを示している。

では、以下の式は成り立つだろうか。

(p|q)+(p|s)=(p|q+s)

この式は、「p個の皿にq個のリンゴ」という状態「p個の皿にs個のリンゴ」という状態とを足し合わせると「p個の皿にq+s個のリンゴ」という状態になるということを示している。だが、これは(リンゴの数ではなく)状態に関する性質として明らかに成り立たない。なぜなら、この二つの足し合わせは、あくまでも「2p個の皿があり、そのうちp個の皿にq個のリンゴ、残りのp個の皿にs個のリンゴ」という状態だからである。

ここで、s=1としたうえで、p個の皿を一巡して各皿一つずつリンゴを足していくこと、3×5の例ならば、3枚の皿に、すでにリンゴおかれている5個のリンゴに、一つずつリンゴを足していけばいい、と思うかもしれない。ところが、これはうまくいかない。なぜなら、「各皿に一つずつリンゴを置いていく」という操作は、「3(枚)×1(個/枚)」ではなく「1(回)×3(枚の皿に一つずつリンゴを置く/回)」ということで、「かける数」と「かけられる数」に全然違うものが想定されてしまい、求めるような状態を表してくれないからである。

なので、最初の帰納法の話に戻ると

f(6|3)=f((5|3)+(1|3))=f(5|3)+f(1|3)

は成り立つが

(3|6)≠(3|5)+(3|1)

より

f(3|6)=f((3|5)+(3|1))

が保証されていないので、帰納法のステップを進めることができないといえる。


なお、fの定義として、f(p|q)=p・q(ただし「・」は自然数の体系の積)とすればもちろんf(p|q)=f(q|p)は言える。しかしそのためには先行して自然数の積の体系が定義されていなければならないので、小学校教育ではこの方法を取り入れることができない。



結局、「意味」や「特別な記号」を導入するためには、その前提として「一般的・抽象的な体系」(今回ならば自然数の積の体系)が既知であることを前提とせざるを得ないということが見逃されていたこと、これが積の順序の問題の根本にあったと考えられる。もちろん、いきなり「一般的・抽象的な体系」が理解できるはずがないから、最初は具体的で身近なものとつなげて考えて、次第に抽象化するしかないという意見には賛成する。だが、そのためには「一般的・抽象的な体系」と「イメージを持たせるために取り上げた具体的なもの」とが、その本質において可能な限り一致していなければならない。ところが、この掛け算の問題では習得すべき「一般的・抽象的な体系」である「自然数の積の体系」が可換であるのに対し、「具体的イメージ」のために取り上げた「皿とリンゴ」が非可換な性質をもっていたというところが致命的な問題であった。要するに、用いた例が不適切だったわけである。
なので、代わりとしては、たとえば「縦横長方形に並べたリンゴを(縦横の区別はしないで)数える」という具体的イメージが考えられる。この場合には、どちらを縦にするか横にするかが問われず、ただ数え上げればいいので当然ながら可換性は導けるし、積の意味も適切に表されている。このような例を用いるほうが、教育においてもより円滑になるだろうと考えられる。こうした例を習得したのちに「一つあたりの数」等の概念を学べば、「非可換な積」のような不可思議な存在を介せずとも、単位概念等はきちんと習得できるだろう。

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