経済

「通俗的」行動経済学のケーススタディの問題

最近「行動経済学」がブームである。クイズ形式で「いかに人間が不合理か」を示せるので通俗書でもよく取り上げられるのだが、そういうところで取り上げられるクイズは、冷静に考えてみると説明がおかしかったり、設定が非常識であったりして、そもそもの目的に失敗していることも多い。いくつか例を取り上げてみてみよう(ちなみに、当のカーネマンの実験は純粋にお金をやり取りする実験で行われており、こういう問題点には陥っていない)

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シグナリングと優遇措置

学歴が優秀性のシグナリングとして機能するという話は、スペンス以降よく聞くようになった。それに絡めて、人種差別と学歴シグナリングの逆説的なつながり――アファーマティブアクションが逆に優遇した人達を損にさせてしまうという点――を指摘する話もときどき聞くようになった。その例として、J.ミラー『仕事で使えるゲーム理論』阪急コミュニケーションズを取り上げよう。

シグナリング理論によると、大学がある人種を差別すれば、雇用者は逆にその人種を優遇することになる。悲しいかな、その逆もまた真なのだ。
不当に差別された人たちを救済するアメリカの積極的優遇措置は、大学が卒業生の資質を証明するという役割に関する限り、優遇措置の対象となる人種グループにかえって悪影響を及ぼしてしまう。高校生の学業成績を0点から100点に換算するとしよう。ある難関大学が、Xグループからは90点以上の学生を受け入れ、Yグループからは積極的優遇措置によって85点以上の学生を受け入れるとしたらどうか。この大学に入る最大の利点が、学生の資質の高さを証明するシグナルの発信にあるとしよう。不幸にも積極的優遇措置のために、この大学を卒業したというシグナルの価値は、優遇されたYグループの方が低くなってしまうだろう。
(pp213~214)

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死荷重・サービス業・免許

なんか「弁護士費用は死荷重だ」「弁護士は免許ではなくて資格で十分」といったことで池田信夫氏と小倉秀夫氏の間で論争が起きているようである。

さて、この論争において、池田氏は二つの異なる主張を行っているように思われる。

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マクロ経済学における動学モデルの不遇

古くなったが、『現代思想09年8月号 経済学の使用法』を読んでみたのだが、なんかいろいろひどい。東大の経済学の教授の吉川洋氏が「いま経済学に何が問われているか」という論文を、上智の経済学の教授の平井俊顕氏が「経済学はいずこへ」という論文を寄せているが、経済学の観点と科学の観点と双方からなんか引っかかるところが多い。
まず吉川論文から。

実際、二〇〇八年秋から深刻化した金融危機、世界同時不況の下で正統派の経済学は何もいうべきものを持たなかったのである。(p83)

正統派の意味はよくわからないが、本文の流れを読む限りとりあえずマクロ動学モデルを用いている経済学者としておいていいだろう。で、アメリカでも日本でも、そうした経済学者は今回の金融危機に積極的に発言していたと思うのだが。例えばBarroの記事はこれに当たるだろうし、ケインズ派の人びとが持ち上げるKrugmanだって動学モデルを用いている。もちろんKrugmanは金融危機に積極的に発言している。

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スパコンへの出資と費用対効果の問題

スパコン開発への出資が実質止められた件で、このニュースで触れているわけではないが、いわゆる「費用対効果」の問題を論じている人が多いので少しコメントしておく。



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相対的貧困に意味はあるか

日本の相対的貧困率が政府主導で調べて発表された(毎日jp

長妻昭厚生労働相は20日、国民の貧困層の割合を示す指標である「相対的貧困率」が、06年時点で15.7%だったと発表した。日本政府として貧困率を 算出したのは初めて。経済協力開発機構(OECD)が報告した03年のデータで日本は加盟30カ国の中で、4番目に悪い27位の14.9%で、悪化してい る。日本の貧困が先進諸国で際立っていることが浮き彫りとなった。

最後から二文目まではデータだからまあいいけど、一番最後で猛烈な飛躍がある気がする。

大体、「相対的」貧困ってことは、周りに金持ちが多かったら、自分もきちんと暮せたとしても貧困という扱いになるわけで、別にさしたる問題ではないだろうし。

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景気はそんなに悪いのか!?

朝日新聞によると

「景気「足踏み」「悪化・下降」根強く 主要100社調査」

とのことだが、まずこれ調査の際の選択肢が変な気がする。

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クルーグマンの定額給付金批判の意味

経済学者のクルーグマンが定額給付金を「0点」と酷評したことがニュースになっている。(日経ネットasahi.com


最初このニュースを見たとき「え!?クルーグマンって財政出動論者じゃなかったっけ?」と思った。

だが、それは実際のクルーグマンの発言の文脈を見てみて納得した。

クルーグマンはこういう意味で定額給付金批判をしている。

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経済学における「均衡」と熱力学・統計力学

アゴラを読んでいて少し気になったので。

安富歩氏が、経済学の「均衡」と熱力学の「平衡」を同一視する誤りが起きていると主張している。

まず熱力学の平衡について

物理学の平衡は大雑把に言うと、「マクロに運動が見られない」という意味だと言ってよかろう。(中略)

大切なことは、物理学の平衡は物質やエネルギーの出入りのない閉鎖系に関するもので、開放系には想定できない、という点である。たとえば生命は開放系であるから、一般に平衡状態を想定した議論は成り立たない。

非平衡開放系で何らかの量が止まっているように見える場合には「定常」状態という。「均衡概念の危険性について」

と書いている。これはその通りである。そしてそれに続けて

言うまでもないが、経済社会は生命と同じく非平衡開放系なので、そこで「価格」が止まっているとしたら、それは「平衡」ではなく「定常」である。

新古典派経済学の根本的な問題は、この定常状態に関して、閉鎖系の平衡統計力学風の議論を持ち込んでしまったことである。これはちょうど、人間の体温が一定であるのを見て「平衡」だと思い込み、平衡統計力学の手法を用いて身体の理論を作るのと同じ倒錯した行為である。

と書く。

だが私は「そもそも経済学は、熱力学の平衡の意味で「均衡」という語を用いているのか」という点には疑問である。

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市場の自動供給、の意味的問題

何らかの規制を廃して自由市場化を推し進める人が必ずいうことに「必要量は自由市場においてもきちんと供給される」というものである。

だが、この「必要量」とは一体何を指しているのだろうか。

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